さとぷろ。学校第1講、午後は長野県林業総合センター指導部の小山さんを講師に、里山や森林についての見方や、どんな里山にしていけば良いのかなどを学びます。小山さんにはフォローアップ講座でもお世話になっていますが、里山や森林を楽しむ(愉しむ)達人です。

小雨が降っている中でしたが、みんなで天平の森周辺を歩きながら、里山を読み解いていきます。「木は動けない」「無駄なことをしない」「木の姿を見れば人生がわかる」「木や植物の名前は覚える必要はないけれど、特徴とセットで理解すると面白い」

森の入口にあるこの1本の人生は、何度か劇的な変化が起きたことがわかります。はじめは暗い森のほうへ成長していき、途中からさらに暗いほうへ伸びている。でも葉っぱの付き方をみると、こちらの明るいほうにたくさんついて枝も伸びています。つい最近まで何かがあって、今は暗く見える奥のほうが明るかったのかもしれません。近くに太い切り株があります、きっとこの切り株が伐られるまでは、森の奥のほうが明るかったのかもしれません。

大きな葉っぱのホオノキは、ひたすら上へ上へ高くなろうと成長します。今の時期、木曽へ行くと美味しい朴葉巻きが食べられますね。

葉っぱの上に実がついているハナイカダ、実がついているということは、葉っぱの上に花が咲いたということ。よく見ると、実がついている葉っぱと実がついていない葉っぱがあります。違いは白い筋、もともと葉っぱと花は別だったのが、なぜか一緒になってしまったという痕跡です。ハナが葉っぱのイカダに乗っているように見えるので、ハナイカダという名前がついたようです。イカダといえば水、ハナイカダは沢沿いに多い木なのです。水が大好きな木だということを覚えておいてください。

ここにはシダが何種類もあります。シダの種類の多さは、周辺の水分が多いことの指標です。さっきのハナイカダといいシダの種類が多いことといい、沢沿いには到底見えないけれど、それぐらい水分が多いところなのです。山頂のすぐ近くだというのに面白いですね。

ここにもハナイカダがありますが、さっきのと違って実がついていません。花を咲かせて実をつけるということは、人間でいえば子育てです。はじめのハナイカダは、子育てするだけの余裕がある裕福な木。こちらは自分自身を保つだけでいっぱいいっぱいの貧しい木。2本の違いはどうでしょう?こちらの場所は圧倒的に暗いです、だから花をつけるだけの稼ぎができないのですね。こんな視点で森林を見ていくと、いろいろな発見ができます。

松枯れのアカマツを伐ったことで明るくなった場所には、日光を好むタラが一番に出てきます。そして、ここにはシダがない。明るくなった分、風通しがよくなり、水分が蒸発してしまうのです。昔から食べられている山菜のタラ・ワラビ・ゼンマイなどは全部明るいところにはえるもの。昔の山はもっと明るかったのかもしれません。

刈敷(かりしき)とは、田んぼや畑に葉っぱや細い枝をすきこんで養分にすること。今はホームセンターに行けば、肥料も燃料も簡単に手に入りますが、昔はすべてを山で調達していました。田んぼ1枚あたり10枚分の広さの山が必要と覚えておいてくださいね。刈敷だけでなく燃料の薪も必要だから20枚分ぐらいは必要でしょう。山に近いところは良かったけれど、遠いところは大変だったでしょう。葉っぱと枝まで必死で里に出すから、今と違って土はなく、岩がむき出しの状態でした。山を利用しなくなったここ60年ぐらいのあいだに、葉っぱが積もって腐葉土となり、土が山を覆っているのです。

ここは田んぼのあと。こんな山の中に田んぼがあるなんて、きっと隠し田として利用していたのでしょう。江戸時代、松本藩の年貢を納めなくていいように隠して作っていました。飢饉の時に一揆が起きていますが、明科の人たちは積極的に参加していない歴史もあります。

残そうとしていた木が立ち枯れしてきています。周辺の木が成長して、光をさえぎってきていますね。昔は田んぼももっと明るかったのでしょう。葉っぱが虫に食べつくされている木もあります。虫を食べる鳥が来なくなったのですね、暗くて風通しが悪いところには鳥も来れないのでしょう。

木の根っこは木の高さと同じぐらい深く入っているという話は全くのウソ。木は無駄なことをしないので、浅いところで横へ横へと根を張ります。私たちもものを埋める時に、穴は深く掘らずに横に寝かせますよね。ましてや地表に近いところに十分な水があるので、深く根を張る必要性がまったくないのです。

隣の四賀はクジラの化石が出ることで有名で、昔は海の底だったのです。ここも同じで、地層を見ると海の底の砂が固まってできています。砂と目の細かい泥が交互に重なっているのがわかりますか?地表で雨が降っても、砂は水を通すけれども泥の層にぶつかると下に行けずに横に流れます。そうした層が重なっているので、一度に大量の雨が降ったりすると流れてしまう場所なのです。過去にも地滑りが起きています。

里山再生を考えるときには、山をひとつどうにかしようとするのではなく、部分ごとに小さな範囲で考えて、やってみると良いですね。施業すると必ず結果が出ます。どんな森にしたいか、何を大きく育てたいか、そんな目で森を歩いて、里山再生について考えてみてください。

小山さんの話術に引き込まれ、さっそく里山を楽しむ第一歩を歩き出した受講生のみなさん。ふりかえりシートにも「よく理解できた」「里山の見方が変わった」などの感想が書かれていました。1か月後の第2講も楽しみですね。