安曇野市穂高牧に位置する「県営烏川渓谷緑地森林エリア」、小雪の舞う中おごそかに「斧入れの儀Ⅲ」が行われました。開園当初から行政とともに森林エリアを整備している「烏川渓谷緑地市民会議森林保全チーム」主催、山仕事創造舎のみなさんも駆けつけてくださり、年に一度の神聖な儀式です。さとぷろ。サポーターにもご招待いただいたので、ご一緒させていただきました。

今回寝かす(倒すとは言いません)のは、このサワラ。土壌に水が多く、ヒノキには不適地といわれる場所にあるサワラ、良材になるのではないかと期待されています。樹高20~25メートル、樹齢60~70年、胸高直径約50センチ。

「新月伐採(しんげつばっさい)」秋から冬の新月に至る1週間ほどの期間に伐採、谷側に寝かせて長期間葉枯らしを行い、製材後に天然乾燥をすると良材となるといわれています。燃えにくい、カビに強い、腐食に強い、害虫に強い、割れや狂いが生じにくい…。それを「三つ紐伐り(みつひもぎり)」という伝統的な手法で行います。はじめに、お酒、お米、お塩をサワラの周囲にささげ、命をいただきますという二礼二拍手一礼を全員で行いました。

本日使う斧。薪割りの斧とは違って、木を伐るための専用の形状をしています。今は作られていないので、もう少し本数を増やすために、昔の林家を訪ねて聞いてみたいともおっしゃっていました。刃の左右に線が入っています。三本は「ミキ(お神酒)」、四本は「ヨキ」地風水日で木を育てるものの意味があるそうです。木を伐る前に木に立てかけて、作業の安全と無事を祈るのはそのため。準備してくださった斧は幅の広いのが2本、狭いのが2本。最初は広いものを使って、だんだん掘り進んでいくと狭いのを使うのがよさそうです。

一本はしごを使って、サワラにロープをかけます。寝かせる方向にロープをかけ、チルホールでけん引するためです。山仕事創造舎の特殊伐採チームKさん、下枝を伐りながらスルスルと上っていき、スリングをかけロープをつけてくださいました。お見事!

赤いスプレーで斧を入れていく部分、残す部分を色分け。下駄の鼻緒のように3本の紐(つる)を残していきます。そのため3か所を斧で掘っていくのですが、3人でタイミングを合わせて斧を入れていきます。「はい!」「よっ!」などと声を出し、順々に斧を入れていると、だんだん声と斧を入れるタイミングがずれたりして…。静かな森に響き渡る斧の音、神聖で荘厳な感じがします。

サポーターのBさんも…。腰が入ってい~い感じです。

県職員のFさんも…。だんだん深く、狭くなってきましたね。

3つの切り口が中でつながりました!寝かせる方向を狙うために、ツルの形を整えながら仕上げていきます。

追いを入れるのはやはりこの方!チームリーダーのIさんです。木の幹が揺れだしますが、周辺の木と枝が絡み合っていて素直には動きません。チルホールで少し引っ張ってみると、大きな音を立てながら、雪を振りまきながら、ドドーンと横になりました。斧を入れ始めてからちょうど1時間、寝かせる方向も狙い通り、さすがです。

先端部分を切り株に立て、一礼。年輪を見ると約80年、はじめの10年ほどが数えられないほど細かく、日陰で苦労したのかな?という予想ができました。それにしても、80年間もこの地を見続けてきたサワラ、今度は建材となって里におり、利用されていくことでしょう。

チェンソーウィンチを使って丸太を運ぶ(集材)デモンストレーション。重い材を、いかに林道まで搬出するか、これが大変です。小さな動力で、有効的に運び出す、知恵が必要ですね。ロープや滑車を設置する場所により、摩擦が少なくけん引しやすくなるようです。これは固定された滑車ですので、けん引する力は等倍ですが、動滑車を使うと2倍3倍…とけん引できる力が倍増します(なんて、理科の授業を思い出してみました)。林業の現場では、かなり科学な視点も必要です。

「森の家」に一昨年の斧入れの儀で寝かせたヒノキが板、柱状に製材されて乾燥中。住宅を建てる予定のある方には、格安にてお譲りするとのこと。新月伐採、三つ紐伐りの建材、きっと良い住宅になることでしょう。

烏川渓谷緑地市民会議森林保全チームのみなさま、お世話になりました。ありがとうございました。